こんにちは。ヒデです。
前回に続いて『急性心筋梗塞』の話をしたいと思います。
前々回の「急性心筋梗塞は若い人でも急に命を落とす。 生死の境はどこ?」の記事の中で、松村邦洋さん、松田直樹選手のことを触れました。
特にサッカーの松田直樹選手は、普段から激しい運動をしていました。前兆は無かったのか疑問に持つ方も多いでしょう。
今回はその辺りに焦点を当てて『急性心筋梗塞』を解説したいと思います。
もくじ
『急性心筋梗塞』って、体の中で何が起こってるのか?
急性心筋梗塞は心臓の周りの冠動脈という血管が突然詰まってしまう病気
急性心筋梗塞ってどんな病気なのか?体の中で何が起こっているのでしょうか?
それを説明するためには、まず心臓の解剖(構造)を知っておく必要があります。
これは、実際のCTの画像です。(3D構築)
このように、心臓の周りには冠動脈という動脈が走っています。
この冠動脈を経由して、心臓の筋肉(心筋)に赤血球に乗せた酸素が送られています。
この酸素を原料にして、エネルギーが作られます。そして、そのエネルギーで心臓は動いています。
非常に簡単に言うと、この冠動脈が突然詰まってしまうと、急性心筋梗塞になります。
狭心症も冠動脈が原因の病気。 急性心筋梗塞との違いは?
心臓の病気で心筋梗塞とともによく聞くのが『狭心症』という病名ではないでしょうか。
では、狭心症は急性心筋梗塞とどう違うのでしょうか?
この狭心症も先ほどの冠動脈にトラブルが起こる病気です。
しかし、狭心症はこの冠動脈が詰まるのではなく、非常に細く(狭く)なる病気です。
動脈硬化という言葉を聞いたことがあるかと思います。
年齢とともに動脈が硬くなるわけですが、そこに糖尿病や、高血圧などがあると、年齢以上にこの動脈硬化が進みます。
動脈硬化とは、ただ単に血管が硬くなるだけではなく、血管に脂分(コレステロールの塊のようなもの)が付着してきます。
この絵は動脈硬化が進んでいく様子を1本の血管の中で表現したものです。
一番左側は正常の血管ですが、動脈硬化が進むと徐々に右のように変化していきます。
この変化は、通常は年単位で起こっていきます。
血管に脂分が貯まり、これにより徐々に動脈の内腔が狭くなっていくことがわかります。
(ちなみに、この絵では一番右では赤血球が動脈を防いでいますが…。)
こうして冠動脈が狭くなることによって起こるのが狭心症です。
急性心筋梗塞と狭心症の症状の違い
先ほど説明した通り、この冠動脈は心臓の筋肉に必要な酸素を運んでいます。
この酸素をもとにエネルギーを作り、心臓が動いているのです。
ところで、運動すると脈拍が多くなりますよね。
つまり、運動するとそれだけ頑張って全身に血液を多く送らなければならないため、心臓が頑張る必要が出てきます。
すると、心臓の筋肉が必要とする酸素の量が増えてくるのです。
これに対して、通常は、冠動脈に流れる血液の量を増やすことで対応します。
ところが、その冠動脈が動脈硬化によって狭くなっていると、必要な血液の量が心臓の筋肉に供給されず、それを痛みと感じるわけです。これが狭心症の症状です。
つまり、血液(酸素)の需要と供給のバランスが崩れると胸の痛みが起こります。
これを図にするとこんな感じになります。
冠動脈に狭窄(狭いところ)が無い時、軽い狭窄、中くらいの狭窄、高度の狭窄がある時の酸素の需要と供給のバランスを天秤で表してみました。
安静時、つまり動かなければ、たとえ冠動脈に高度の狭窄があっても、バランスが崩れず、胸の痛みなどは出ません。
しかし、歩くなどの軽い運動した時には心臓の酸素の需要が増えます。
すると、高度の狭窄があった場合は、それに見合うだけの酸素を供給できなくなり、需要と供給のバランスが崩れ、胸の痛みが出現します。
より強い運動(例えば走ったり、階段を登ったり)をした時には、今度は中くらいの狭窄のある場合も需要と供給のバランスが崩れ、胸の痛みが出現するでしょう。
しかし、この冠動脈は通常、内腔が正常の25%程度(1/4)まで狭くならないと、かなり運動したとしても症状は出ないと言われています。
この狭心症の症状が出た場合も、このようにその運動を休むと、需要と供給のバランスがもとに戻り、胸の痛みは改善します。
ですから、狭心症は、通常は動くと胸の痛みが起こり、安静にすれば5~10分で症状が改善します。
休憩すれば症状が改善するからと放っておく方がおられますが、一度検査しておいた方が安心ですので、心当たりのある方は病院に行ってくださいね。
しかし、心筋梗塞の場合は冠動脈が詰まっているので、全く心臓の筋肉に血液(酸素)が行かない状態です。
このように、安静にしてようが、運動してようが、休憩しようが、酸素の需要と供給のバランスは崩れたままです。
つまり、胸の痛みはずっと続くのです。しかも、狭心症の時よりも症状が強いです。
急性心筋梗塞は狭心症症状のある人がなるというわけではない!
さて、このように説明してくると、では、狭心症の延長が急性心筋梗塞と思われがちです。
例えば、松田直樹選手などは、急性心筋梗塞を発症する少し前まで、サッカーの試合にも出場していました。
その時になぜ症状が無かったのか疑問に感じる方も多いと思います。
同じ冠動脈の病気ですが、実は急性心筋梗塞の起こり方は、狭心症のものとは大きく異なります。
先ほど説明したように狭心症は動脈硬化が年単位で進み、冠動脈がかなり狭くなると運動時などに胸が痛い症状が出てきます。
しかし、急性心筋梗塞の場合は、次の様なことが起こっています。
この動画のプラークという部分が動脈の壁にたまった脂分です。
これが急に破れ、血管の中にこの脂分が出ていくと、そこを修復しようとして集まった血小板によって血栓が作られ、この血栓が冠動脈を詰めるのです。
これを『プラークの破綻』と呼びますが、これはいつ起こるのか、全く予測ができません。
つまり、心筋梗塞は運動時だけではなく、寝ている間にも起こることがあります。
なぜか、気温が大きく変わる時(急に寒くなった時)に多い印象があります。
ちなみに、このプラーク破綻が起こる冠動脈の7割は、もともとの50%~75%程度しか狭くなっていないと言われています。
上の狭心症の話でいくと、軽い狭窄にあたる冠動脈ですので、狭心症の症状はもともとないことがわかってもらえるかなと思います。
ですから、多くの方は急性心筋梗塞が起こる前に胸が痛いなどの症状はありません。
松田直樹選手の場合も、あれだけ激しいサッカーのようなスポーツをしていても、それまでは症状が無かったものと思われます。
『急性心筋梗塞』の前に『不安定狭心症』という前兆があることも…
ちなみに、この血栓が完全に冠動脈を詰めることなく、ぎりぎり血流が残る(ほとんど詰まっている状態)場合があります。
この時にはちょっとでも動くと胸の痛みが出る狭心症で発症することがあります。
これは『不安定狭心症』と呼ばれ、非常に不安定(危険)な状態で、急性心筋梗塞と同様、すぐに治療が必要な状態ですのでご注意を。
どうでしょうか?
急性心筋梗塞の起こり方、狭心症との違いなど、わかったでしょうか?
やはり急性心筋梗塞は恐ろしい病気ですね。
では、みなさん、今日も元気にお過ごしください!
~参考記事~